昆虫食コラム

「外来種」について考察してみます(前編)

先日、三重県で採取してきた「フェモラータオオモモブトハムシ」は、いわゆる「外来種」ですが、そもそも「外来種」ってなんでしょう。

ということで、今回、日本における外来種問題について、僕なりに研究してみました。

まず、「外来種」は日本の固有の生態系を乱すのでダメだ、というのはなんとなく皆さんも認識している通りです。大体それで正しいと思います。笑

では、具体的に、我が国の外来種対策はどうなっているのかを、確認していくことにします。(環境省のHPなどを、かみ砕いて説明していきます)

パンフレットを見るのがわかりやすくていいのですが、困ったときは、法律を逐条で読み込むのが原則です。

関係する法律は、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下、「特定外来生物法」)です。

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律

(目的)

第一条 この法律は、特定外来生物の飼養、栽培、保管又は運搬(以下「飼養等」という。)、輸入その他の取扱いを規制するとともに、国等による特定外来生物の防除等の措置を講ずることにより、特定外来生物による生態系等に係る被害を防止し、もって生物の多様性の確保、人の生命及び身体の保護並びに農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資することを目的とする。

(定義等)

第二条 この法律において「特定外来生物」とは、海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物(その生物が交雑することにより生じた生物を含む。以下「外来生物」という。)であって、我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物(以下「在来生物」という。)とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものとして政令で定めるものの個体(卵、種子その他政令で定めるものを含み、生きているものに限る。)及びその器官(飼養等に係る規制等のこの法律に基づく生態系等に係る被害を防止するための措置を講ずる必要があるものであって、政令で定めるもの(生きているものに限る。)に限る。)をいう。

なるほど。何が特定外来生物なのかは、政令を見なさいってことですね。

確かに、いちいち種類を追加するのに、法律の改正をする(国会の決議を受ける)のはスマートではありません。

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令
(政令で定める外来生物)
第一条特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項の政令で定める外来生物は、次に掲げる生物とする。
一 別表第一の種名の欄に掲げる種(亜種又は変種を含む。以下同じ。)に属する生物
二 別表第二の種名の欄の左欄に掲げる種に属する生物がそれぞれ同表の種名の欄の右欄に掲げる種に属する生物と交雑することにより生じた生物(その生物の子孫を含む。)

見えにくいですけど、環境省のHPに載っています。

このリストによれば、昆虫類で掲載されているものは、「マルバネクワガタ」「セイヨウオオマルハナバチ」「ツマアカスズメバチ」など、数はそんなに多くありません。

昆虫類で特に注目すべきは「クビアカツヤカミキリ」でしょうか。

サクラなどの主にバラ科の樹木を食害し、樹木を衰弱させ、枯死させる可能性があります。

幼虫は、4~10月頃に樹木内部を摂食しながら2~3年過ごし、5~8月頃に成虫となって樹木の外に現れます。

クビアカツヤカミキリがいる木には、大量のフラス(木くずと糞の混合物)が排出されています。

こちらは、以前、外来種駆除と昆虫の中で最も美味と言われる「カミキリムシの幼虫」をうまく利活用することはできないかというのを、樹木医さんより依頼を受けて検討したことがあるのですが、「特定外来生物」であることがネックで頓挫したことがありました。

食べて駆除するという発想自体はよいのですが。

さて、フェモラータオオモモブトハムシは、このリストには載っていません。

特定外来生物法で規制される「特定外来生物」ではないということになります。(これについては、後述します。)

さて、法令で規定される「特定外来生物」に該当するかどうかは結構重要なポイントということになることがおわかりいただけたかと思います。

昆虫類以外にも、「ブラックバス」「ブルーギル」といった外来種の代名詞、印旛沼に定着していてテレビ東京の「池の水全部抜く大作戦」でも度々登場する「カミツキガメ」などが指定されています。

では、この、特定外来生物に指定されると、どうなるのかを見ていきましょう。

特定外来生物法より抜粋(例外規定等は記載省略)
(飼養等の禁止)
第四条 特定外来生物は、飼養等をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一~二 略
(輸入の禁止)
第七条 特定外来生物は、輸入してはならない。ただし、第五条第一項の許可を受けた者がその許可に係る特定外来生物の輸入をする場合は、この限りでない。
(譲渡し等の禁止)
第八条 特定外来生物は、譲渡し若しくは譲受け又は引渡し若しくは引取り(以下「譲渡し等」という。)をしてはならない。ただし、第四条第一号に該当して飼養等をし、又はしようとする者の間においてその飼養等に係る特定外来生物の譲渡し等をする場合その他の主務省令で定める場合は、この限りでない。
(放出等の禁止)
第九条 飼養等、輸入又は譲渡し等に係る特定外来生物は、当該特定外来生物に係る特定飼養等施設の外で放出、植栽又はは種(以下「放出等」という。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一~二 略

特定外来生物に指定されたものについては以下の項目について規制されます。
(1)飼育、栽培、保管及び運搬することが原則禁止されます。

※研究目的などで、逃げ出さないように適正に管理する施設を持っているなど、特別な場合には許可されます。

※飼育、栽培、保管及び運搬のことを外来生物法では「飼養等」といいます。

(2)輸入することが原則禁止されます。

※飼養等をする許可を受けている者は、輸入することができます。

(3)野外へ放つ、植える及びまくことが原則禁止されます。

※放出等をする許可を受けている者は、野外へ放つ、植える及びまくことができます。

(4)許可を受けて飼養等する者が、飼養等する許可を持っていない者に対して譲渡し、引渡しなどをすることが禁止されます。

(5)販売することも禁止されます。

(6)許可を受けて飼養等する場合、特定外来生物ごとにあらかじめ定められた「特定飼養等施設」内のみでしか飼養等できません。

罰則も規定されており、法人は億で罰金が科せられます。結構シビアな法律です。

では、特定外来生物に該当しないその他の外来種についてはどういう扱いなのでしょう。

世界には数え切れない種類の生き物がいます。そのすべてを日本の法令で指定して扱いを検討するのは不可能です。
たとえば、極端な話、「キリン」を指定するとか、意味あります??って話になります。

ここで、「ブラックバス」「ブルーギル」と並んで最もなじみの深い外来種「アメリカザリガニ」をピックアップしてみます。
実はアメリカザリガニは、最もなじみある外来種で繁殖力も旺盛なのにもかかわらず、特定外来生物に指定されていません。
アメリカザリガニ以外の外来ザリガニが指定されているにも関わらず、です。
賛否あると思うのですが、国の会議ではこのようにコメントされていました。

R2.6.22~6.26 特定外来生物等専門家会合(第12回)の概要より抜粋
※今回指定候補から除外されたアメリカザリガニの取扱いについて
本会合において、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)において緊急対策外来種に選定されているアメリカザリガニについては、生態的影響(あるいは生態的特性)としては特定外来生物に指定する要件を満たしているものの、現行法下において指定した場合、飼育個体の大量遺棄が懸念されるなど、社会的な混乱を引き起こすことが懸念されるため、今回の指定は見送ることが適当とされた。
これを踏まえ、環境省としては、次期法改正に向けて対応方法を検討するとともに、当面の対応として、アメリカザリガニの生態系への影響と生息域の拡大防止について改めて知見の収集や普及啓発、各主体による取組への支援を強化していくこととする。

これについて、専門家の皆さんはこのように意見をされています。
アメリカザリガニ、ウシガエル、ブラックバスにブルーギル、そしてアカミミガメ、これらはいわば、外来種対策の本丸のようなものです。

現在、未判定外来生物とされているザリガニ類を特定外来生物に指定する方針に異議はない。その理由として、ザリガニペスト(アファノマイセス菌媒介)の蔓延防止を最大の懸念事項として挙げている。その一方で、アメリカザリガニを特定外来生物に指定できない根拠として「指定することに弊害もあり」と弁解されている。確かに、手遅れ感の強いアメリカザリガニを特定外来生物に指定することは、現時点では現実的ではない。しかし、「指定することに弊害もあり」のうち“弊害” と表現しておくと姿勢を問われかねず、適切ではないように思える。(細谷委員・近畿大学 名誉教授)
アメリカザリガニは生態系への悪影響はすでに顕在化しており、科学的には指定するのが当然と考えられる。今回、指定種からわざわざ除外したことで免罪符と誤解される可能性が高い。生態系被害防止外来種リストにおいて緊急対策外来種と位置づけたのは、できるだけ早くに指定することが望ましいという結論に基づくものだったと思う。他の「特定外来生物から除く」とされているのは在来種であるからで、アメリカザリガニを除く理由とまったく異なる。したがってアメリカザリガニは早期に駆除すべき種として考えていることを判って貰うように、今回は除外した理由と今後の方針を付記等何らかの資料で判るような配慮が望ましいと考える。そうすることでアメリカザリガニの分布拡大や利用が少しでも早期に抑制されるように配慮すべきだと思う。(村上委員・元京都大学 講師)
私がよく訪れる日本のため池百選(農林水産省選定)の茨城県土浦市の宍 塚大池においても、甚大な影響が出ている。昨年夏は、ハスとヒシがほとんどの水面を多くほど繁茂していたが、その後、水位が減ったためか多くの魚類が死亡し、ザリガニの捕食者が減少したためか、本年はアメリカザ リガニが激増した。そして、6月中旬になっても水面には水草が1本も見られない状態という惨状を呈している。このような減少は、おそらく全国各地で見られるのではないかと推察される。アメリカザリガニの有効な駆除 技術の開発とその実施はもちろんだが、既にブルーギルやブラックバス、アメリカザリガニが多発状態にある池で、特定の種の駆除が行われた場合の影響についての知見蓄積が求められる。また、特定外来種としての扱いの検討においては、すでに蔓延しているウシガエルを特定外来種に指定した効果、問題点の抽出が有効ではないだろうか。(森本委員・国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)

すでに蔓延しきっているので、駆除のしようもないように思えるアメリカザリガニ。
とはいえ、社会の混乱と、日本の固有種の保護、生態系の維持は別問題だと思いますが、難しいですね。

さて、話は少しそれましたが、フェモラータオオモモブトハムシについては、「特定外来生物」ではないので、法律で制限されていません。
よって、採っても飼育しても、食べても、繁殖させても、極端な話、何の規制もないわけです。
そうはいっても、「外来種」には変わりありませんから、適当に扱っていいものではありません。
ということで、続編においてその他の外来種について改めて調べた結果をまとめてみます。